知る ②
指定基準と指定図書の実態
東京都が図書を「有害図書(8条指定図書類)」に指定する基準は、条例ではなくその下位の「施行規則」に書かれています。 このページでは、その基準の文言と、実際に指定されてきたものとを照らし合わせます。
有害図書指定の基準は
「施行規則」に書かれている
条例 第八条第一項第一号は、「著しく性的感情を刺激するもの」に該当すると認めた図書を知事が指定できると定めています。[2]
そこでいう「著しく性的感情を刺激するもの」の具体的な基準を定めているのが、施行規則 第十五条第1項第一号です。[1]
条例 第八条第一項第一号
「著しく性的感情を刺激するもの」
「著しく性的感情を刺激するもの」の
基準を定めているのが
施行規則 第十五条第1項第一号
次の「いずれか」に該当するか
全裸若しくは半裸又はこれらに近い状態の姿態を描写する
性的行為を露骨に描写し、又は表現する
それによって
卑わいな感じを与える
人格を否定する性的行為
を容易に連想させる
※ 図は条文の組み立てを分かりやすく示したものです。
※条文の全文(条例 第七条・第八条/施行規則 第十五条)は条例・施行規則が定める「性的感情を刺激する」図書の基準のページでご覧いただけます。
文言どおりなら、実写の雑誌も対象のはず
この基準は、漫画やイラストに限った規定ではありません。実写を含むすべての図書類が対象です。
文言だけを読めば、コンビニの一般棚に並ぶ雑誌の多くも、「全裸・半裸に近い姿態」「卑わいな感じ」という言葉の射程に入りうるように見えます。[4] しかし、性的な雑誌は約8年間で一度も指定されていません。
基準(施行規則)に出てくる言葉
文言の上では
実写の性的な雑誌の多くも当てはまるのでは?
性的な雑誌の指定件数(約8年間)
0件
指定された本に共通する、条文にない物差し
「いずれか」でよいはずが、すべてで「イ・ロ」両方
条文では「著しく性的感情を刺激するもの」として、イかロのどちらか一方に当てはまればよい、と定めています。にもかかわらず、実際に指定された図書では、確認できたかぎりすべてでイ・ロが両方そろって挙げられています。
「どちらか一方でよい」はずの基準が、なぜ運用では一貫して両方そろうのでしょうか。条文の文言と、実際の記録のあいだには説明されていない開きがあります。
条文にない「全編大部分」という物差し
議事録を読んでいると、性的な図書の諮問の際に「全編大部分」という言葉が繰り返し出てくることに気づきます。
「該当箇所につきましては、「全編大部分」でございます。」
第698回 事務局説明より
「2誌とも、該当箇所につきましては、「全編大部分」でございます。」
第694回 事務局説明より(2冊同時審議)
条文には、該当箇所の範囲についての定めはありません。しかし事務局は、性的な理由で諮問された図書のいずれについても、該当箇所を「全編大部分」と述べています。[5]
該当箇所は「全編大部分」でなければいけないのか。ここにも、文章になっていない基準があるように見えます。
諮問されれば、100%指定される
審議会というのは本来、図書を指定すべきかどうかを各委員が議論し、判断する場のはずです。
しかし、約8年間で確認できたかぎり、審議会で諮問された(指定するかどうかが正式に問われた)図書は、100%指定されています。指定されなかった例は1件も見当たりませんでした。
採決では、委員の一部が「指定非該当」や「保留」と表明した案件も32件ありました。それでも、いずれも「指定該当」が多数で、結果は指定に至っています。
審議会に諮問された図書のゆくえ(約8年間・確認できた範囲)
諮問された図書
91冊
そのうち指定された
91冊(100%)
指定されなかった
0件
※ 採決で反対または保留の票が出た案件は32件あったが、いずれも指定に至った。
諮問どおりに議決されること自体は、行政の審議会では珍しいことではありません。ただ、そうだとすればなおさら——
諮問されれば必ず指定されるのなら、何を指定するかを実質的に決めているのは、審議会の採決ではなく、その手前の「事務局が諮問するかどうか」の段階なのではないでしょうか。
そして現に、都民の申し出の多くも、この同じ事務局の段階で止まっています(詳しくは知る③)。
BL作品への偏りと、説明されない理由
これまでに指定されてきた図書のほとんどはコミックです。当サイトが議事録の記述などをもとに分類したところ、その94件のコミックのうち約9割(82件)がBL(ボーイズラブ)作品でした。
東京都の指定図書の割合
(平成30年〜令和8年5月、全95件)
※「雑誌」の1件は『ラジオライフ』。性的描写ではなく犯罪誘発を理由とする指定。
事務局は「結果としてBLが非常に多くなっているのは事実」と述べています。
「こちらにつきましては特定のジャンルに偏るものではございませんので、引き続き広く調査を行いまして、青少年の健全な育成を阻害するおそれのあるものにつきましては、今後とも適切に対処してまいりたいと存じます。」
第720回 事務局説明より(都民の申し出への回答)
「昨今の指定については、結果としてBLが非常に多くなっていることは事実であります。ただ、その背景事情として、一体何でこういうものが増えているのかであるとか、こうした描写のエスカレーションがなぜ起きているかというところにつきましては、我々でも実態はよくわかっていないところも多々ございますので」
第703回 事務局説明より
同じ第703回の審議では、委員から「BL作品の読者のほとんどは女性である」という発言があり、「この分野が性的にどこまでエスカレートしているかは、業界内で検討に値する」という趣旨の指摘もありました。
数ある図書のなかで、露骨な性的描写は本当にBLコミックばかりに偏っているのでしょうか。
その偏りを生んでいるのは、基準の言葉よりも、その手前で「どんな場所でどんな本を選んで買い、調べるか」という調査のしかたのほうではないでしょうか。しかし、どんな基準で選んでいるのかは明らかになっていません。[6]
出典・注記
- 東京都青少年の健全な育成に関する条例施行規則 第十五条第1項第一号(東京都例規集、令和8年3月31日改正・2026年6月時点)。
- 東京都青少年の健全な育成に関する条例 第八条第一項第一号(東京都例規集)。
- イ・ロのほかに(ハ)(ニ)の定めもあるが、過去約8年間で(ハ)(ニ)を理由に指定された図書はないため省略。条文の全文は東京都の条例・規則における「性的な図書」を参照。
- 文言にあてはまりうることと、実際に「基準を満たす」と判断されることは別。文言の射程と、実際の指定基準は同一でない。
- 指定理由を議事録で確認できたのは第694〜765回の91件(うち性的な理由による指定は90件で、いずれもコミック。ラジオライフ1件は犯罪誘発を理由とする指定で、「全編大部分」の記載はない)。公式一覧95件(令和8年5月時点)との差4件は議事録が未公開。8条指定図書類一覧:東京都都民安全総合対策本部(令和8年5月時点)。
- BL偏りの事実と説明は第703回・第720回の議事録による。「94件のコミック中82件(約9割)」は当サイトが議事録の委員発言・自主規制団体の意見・出版レーベルの性質をもとに分類した推定値で、東京都の公式分類ではない(内訳:議事録で理由を確認できた90冊=BL79・非BL11、議事録未公開の4冊=BL3・非BL1)。
※ リンクは2026年6月時点。条例・自治体ページ・指定一覧は更新されることがあります。